過払い金の返還請求をするために必要な費用
1 過払い金の返還請求の際にかかる費用の概要
過払い金の返還請求の際の費用は、弁護士事務所によってある程度変わりますが、一般的には、相談料、着手金、成功報酬金、出廷費、実費に分けられます。
以下、それぞれについて説明します。
2 相談料
弁護士と相談をする際にかかる費用です。
30分あたり〇円、1時間あたり〇円といった、時間に応じた料金となっていることが多いです。
事案の難易度にもよりますが、過払い金の返還請求の場合、相談料を無料としている弁護士事務所もあります。
3 着手金
過払い金の返還を受けることができるか否かにかかわらず、弁護士に依頼し、弁護士が事件の対応に着手する際にかかる費用です。
過払い金の返還請求の事件の場合、相手となる貸金業者等ごとに設定されます。
争点の有無など、事件の難易度にもよりますが、着手金を無料と設定している弁護士事務所もあります。
また、訴訟を提起する場合や、控訴、上告をする場合(された場合)のみ追加着手金が発生するという料金体系を設けている事務所もあります。
4 成功報酬金
過払い金の返還請求により、金銭の返還を受けることができた場合、返還された過払い金の金額に応じて発生する費用です。
概ね、取り戻すことができた過払い金の18%程度となります。
5 出廷費
過払い金の返還を求めて、裁判所に対して訴訟を提起した場合、期日に弁護士が裁判所へ出廷する必要があります。
その際に、かかる費用です。
弁護士事務所と裁判所との距離に応じて設定されていることが多いですが、1回の出廷につき、概ね数千円~数万円となります。
6 実費
過払い金の返還を求める際にかかる、郵送費や通信費、引き直し計算を専門業者に依頼する場合の委託費、訴訟を提起する際にかかる印紙代、交通費などです。
訴訟を提起せず、和解で終了する場合は、一般的には数千円程度となります。
訴訟を提起する場合、返還を求める過払い金の金額が大きい場合には、裁判所に納める印紙代が数万円程度になることもあります。
過払い金返還請求の流れ
1 過払い金の有無を調査する
利息制限法で制限された利率を超えた利率で借入れ、返済をした場合、利息制限法で制限された利率内であれば借入金の返済は終わっていたはずなのに、返済を続けていたために金銭を払いすぎることがあります。
この金銭のことを、一般的に過払い金といいます。
過払い金の有無を調査するためには、まず貸金業者等から取引履歴という書類を取得します。
取引履歴には、いつ、いくら借入れたか、そしていつ、いくら返済したか、その返済額のうち利息はいくらであったのかが記されています。
取引履歴の中に、利息制限法で制限された利率を超えた利率での借入と返済がある場合、引き直し計算をすることで、過払い金が算定できます。
2 過払い金返還の交渉を行う
引き直し計算の結果、過払い金があることがわかった場合、まずは貸金業者等に対し、書面等で支払いを求めることが一般的です(貸金業者等によっては、すぐに訴訟を提起することもあります)。
過払い金は、専門的な用語で表現すると、不当利得返還請求権という権利に基づいて、貸金業者等に支払いを要求できます。
不当利得返還請求権に基づく金銭の請求については、民法所定の利息も請求できますので、この利息も含めた金銭の支払を求めます。
しばらくすると、貸金業者等から回答があります。
争点(過払い金を返還しない法的な理由)がない場合、過払い金の元金の〇割であれば数か月以内に支払うという提案がなされることが多いです。
貸金業者等からの提案内容に納得できる場合、提案された条件で和解契約を締結し、支払期限までに支払いを受けて終了となります。
提案内容に納得できない場合、より良い条件を求めて再交渉するか、訴訟を提起することになります。
3 過払い金返還請求の訴訟を提起する
貸金業者等との間での交渉では和解に至らない場合、訴訟を提起します。
なお、過払い金返還請求権の消滅時効が近い場合にも、訴訟を提起することがあります。
訴訟を提起した場合、判決に至るまでには半年~1年程度要することが多いです。
訴訟を起こした後でも、訴訟外で交渉をし、納得がいく条件が提案されて和解した場合には、訴訟を取り下げるという対応になることもあります。
過払い金の請求にかかる期間
1 過払い金の請求にかかる期間
過払い金の請求にかかる期間は、任意交渉で和解をする場合と、任意交渉では和解できず訴訟を提起する場合のどちらになるかによって異なります。
任意交渉で和解をする場合、一般的には弁護士に依頼してから過払い金の返還を受けるまで、6か月程度の期間を要します。
任意交渉では和解することができず、訴訟を提起する場合、一般的には訴訟提起の準備から過払い金の返還を受けるまで6か月~1年程度の期間を要します。
以下、それぞれについて説明します。
2 任意交渉で和解をする場合
過払い金の返還請求は、一般的には以下のような流れで進行します。
①貸金業者等から取引履歴の開示を受ける
②取引履歴をもとに過払い金の引き直し計算をする
③貸金業者等に対し算定した過払い金の返還を請求する
④返還金額について貸金業者等と交渉し和解契約を締結する
⑤和解契約で定めた金銭が貸金業者等から入金される
このうち、①と②には、それぞれ約1か月要します。
③と④については、双方がどこまで厳格な交渉をするかにもよりますが、2週間から1か月程度を要します。
⑤については、和解契約成立の日から1~3か月後となることが多いですが、貸金業者によっては6か月後ということもあります。
3 任意交渉では和解することができず訴訟を提起する場合
任意交渉では返還金額に折り合いがつかない場合や、争点が存在し貸金業者等が支払いに応じない場合、訴訟を提起して過払い金の返還請求をします。
まず、過払い金の返金をするかしないかに関わる争点はなく、訴訟前の和解交渉で提示された返還金額に合意ができないため、返金額を増額させる目的で裁判を行うという場合は、訴訟提起の準備から過払い金の返還を受けるまで、一般的な目安として、半年~1年程度の期間がかかります。
内容としては、以下のような流れになります。
①訴訟提起の準備、訴訟の提起
②裁判所で第1回期日が行われる
③被告の貸金業者等から和解の連絡が来て、裁判外で交渉をする
(④ 交渉がまとまる場合、訴外または第2回期日で和解する)
⑤交渉がまとまらない場合、第2回期日を経て判決
①については、取引履歴があれば、2週間~1か月程で実行できます。
②については、一般的には訴訟提起後1か月~1か月半後程度に行われます。
③、④については、第2回期日は第1回期日の1~1か月半後に設定されることが多いため、その間に実施されます。
⑤については、第2回期日を経て判決がなされ、判決文が送達されるまで、1か月程度を要することがあります。
過払い金の返還は、和解契約成立の日または判決文送達から1~3か月後となることが多いです
これに対して、争点が存在し、訴訟前の和解交渉の段階では過払い金の返金そのものを拒否されている場合、争点の内容等により訴訟に要する期間は大きく左右されます。
双方が激しく争う場合には、期日が5回以上開催されることもあり、その結果判決まで1年以上の期間がかかることもあります。
過払い金返還請求をするメリット・デメリット
1 過払い金返還請求をするメリット
過払い金の返還請求をするメリットは、消費者金融やクレジットカード会社等から、(事案によっては多額の)金銭の返還を受けることができる可能性があることです。
過払い金返還請求のメリットは、これに尽きます。
2 過払い金返還請求をするデメリット
過払い金の返還請求のデメリットは、主に以下の3つがあります。
① 過払い金の返還請求をしたクレジットカードが使えなくなる可能性があること
② 残債がある状態で請求した場合には信用情報に登録される(いわゆる「ブラックリストにのる」)可能性があること
③ 過払い金返還請求をした貸金業者等からは新たな借り入れができなくなる可能性があること
過払い金の返還をしなければならない消費者金融業者やクレジットカード会社などの立場からすると、過払い金の返還請求をした方に対し、何らかの措置をしたいという意識が働くためです。
以下、それぞれについて説明します。
3 過払い金の返還請求をしたクレジットカードが使えなくなる可能性があること
過払い金の返還を求める相手がクレジットカード会社の場合、過払い金返還請求をすると、カードは強制的に解約となり、その会社のクレジットカードを使うことができなくなってしまうことがあります。
もう使用していないクレジットカードであれば特段の問題は生じませんが、もし過払い金の返還を求める相手のクレジットカード会社のカードで公共料金等定期的な支払いをしている場合には、あらかじめ他のクレジットカード会社に切り替えるなど、支払方法を変更しておく必要があります。
4 残債がある状態で請求した場合には信用情報に登録される(いわゆる「ブラックリストにのる」)可能性があること
消費者金融やクレジットカード会社に対して返済中である状態(残債がある状態)で過払い金返還請求をすると、信用情報機関に事故情報が登録されることがあります。
残債と過払い金が両方とも存在している場合、実務的には残債と相殺される扱いになります。
結果として、残債が減額されるという形になります。
形式的には債務の減額を求めるということになるので、債務整理を行ったのと同じ扱いになります。
クレジットカード会社の場合、キャッシングの残債がなかったとしても、ショッピングの残債がある場合には、ショッピングの残債と過払い金が相殺されて、信用情報機関に事故情報が登録される可能性があるため、注意が必要です。
5 過払い金返還請求をした貸金業者等からは新たな借り入れができなくなる可能性があること
残債の有無にかかわらず、過払い金返還請求をした場合、過払い金返還請求の相手となる貸金業者等からは、今後新たな借入れをすることができなくなる可能性があります。
貸金業者等は、信用情報機関の情報とは別に、過払い金返還請求をした顧客の情報を登録しています。
貸金業者によっては、過払い金返還請求があった方に対しては、今後の貸付けを行わないという運用をしていることもあるためです。
過払い金の返還請求を行う際には、これらのデメリットについても検討されることをおすすめします。